イシスチャンネル Isis-CH
HOME > 和泉モモ モモの葉。Feel the world ~この世界の感じ方 「砂漠の戦士」
和泉モモ
Feel the world ~この世界の感じ方 モモの葉


砂漠の戦士


幼稚園の年中さんで、“憧れの君”に出会った。

・・・ホウジョウ タケル君。

タケル君は サッカーが上手。
いつも園庭を 華麗に駆け回る。

サンタンの肌に ハスキーヴォイス。
抜群の運動神経。

皆が憧れるタケル君は、私にとっても 高嶺の花。
憧れて見つめていると、いつもの夢が はじまる・・


・・・・・・・
・・・・
・・

大地を炙る アラビアの太陽。
焼け付く砂丘を たゆたう 陽炎。

遠くから 金属音が響いてくる。

・・・剣術の訓練が 始まった。


窓の陰りに隠れるように、女性達が姿を現す。
憧れと恋心を胸に 遠慮がちな眼差しを注ぐ。


    声を掛けるなんて、とんでもない。
    ただ見つめる
    静かに、そっと・・・

    私は こっそり、
    勇壮な彼のシルエットを描き留める。
    いつでも彼を 思い出せるよう、
    そして 誰にも悟られぬように・・・

      だって、それは、秘めた思い。
      口にすることも許されぬ、
      身の程知らずの 大それた憧れ・・・


    彼は 有能な戦士。

    かたや、
    建物の外はおろか
    屋内でさえ 安易な行動を許されぬ 女の私。


憧れと 空しさに
小さく ひとつ、ため息が洩れる。

・・・・・・
・・・・
・・

その他大勢の 戦士をかき分け、彼はいつも先陣をきる。
仲間を鼓舞し 激励し 束ねてゆく。
何処に居ても どんなに遠くても 圧倒的な輝きを放つ。

 いつか、死ぬ。
 いつでも、死ねる。
  強い黒味を 帯びた眼は、
  その生きる先を 常に静かに見据えている・・・



走る彼の横顔を、今日も 赤い太陽が照らす。


    いつかあの人のように
    生きることが 許されるのなら・・
    いつかあの人と 語らうことが出来るなら・・・


私の胸に 内側から 込み上げる。

熱い、熱い、風が吹く・・・


・・・・・・・
・・・・
・・


年中さんの女の子は、あの時と同じように
彼を日陰から そっと見つめる。

彼が走り出す園庭は、途端に広大な砂漠に変わる。
見つめる私の口の中には、あの砂漠の味が滲む。


5歳児は、あの時と同じように
お絵描き帳に そっと描く。

    大きな赤い 太陽。
    焼け付く 砂漠。
    そして、憧れの君・・・

誰にも 見つからないように。
ひざを立てて、肩をすぼめて。




「モーモちゃん!何の絵を描いているの?
  先生にも見せて?」

突然降って来た声に、息を飲み 身を縮める。
ゆうこ先生が、ニコニコしながら覗き込んでる。

ガバッ。
身体全体で お絵かき帳を覆い隠す。

    どうしよう!絶対に見つかっちゃダメなのに・・・!


「な・・何も 描いてましぇんっ!」

    見つかったら、私は、私は・・・一貫の終わりだ!!


「そんなぁー、上手に描けてたじゃない。
 先生にも、ちょっとだけ、見せて・・・」


引き下がらない先生を前に、幼稚園生に選択の余地はない。

・・目をギュッと瞑って お絵かき帳を差し出す。

    ナムサンッ!!!


「・・・あらぁ~、・・上手に描けているじゃない。
 モモちゃん、タケル君を描いていたのね♪」


    「・・・・・・。」

「はい!ありがとう。
 ・・・先生も、内緒にしとくからね♪」

    「・・・?!」

ゆうこ先生は、ニコニコしながら目配せをして
お絵かき帳を 返してくれた。
そして、ゾウ組さんのお部屋にサッサと 入って行ってしまった。



・・・想像していたのと、まるで違った。

    私は ひどく怒られることもなく、
    手帳を 取り上げられることもなく
    何の罰も与えられず

しかも・・・褒められた?

    本当は、本当は、
    見つかったら大変な筈だった。

    沢山の人の前で“見せしめ”にされて
    取り返しの付かないことに・・
    大変な事に・・・!!


・・・あれれ?
私は、本当は・・・どうなる筈 だったのだっけ・・?


お絵かき帳を抱きかかえたまま、
園庭の向こうに 問いかけ 続けた・・・.。



 

ご意見・ご感想をお待ちしております  和泉モモの関連情報→

 

戻るこのページのトップへ
ご利用規約お問い合わせサイトマップ特定商取引法による表記プライバシーポリシー
当サイトに掲載されている文章・画像の無許可転載・転用を禁止します。