私を置いて・・・
中学1年生の6月。
或る日曜日。
[ 午前9:00 ] に机に座った。
来る期末テストに備え 勉強をするためだ。
好きな 「 歴史 」 から 勉強を始める。
殷・周・秦・漢・・・
或る時代、或る地域に生きた人々の 刻んだ日々。
思いを馳せながら 中国の歴史について覚えていく。
ふと気が付くと、時計は [ 午後3:00 ]。
「?!!」
・・・おかしい。
さっき 椅子に腰掛けたばかりだったのに。
あれ?私は今、何をしていたんだっけ?
ノートは、ほとんど進んでいない。
・・・そうだ。まだお昼ゴハンも食べていないもの。
この時計が狂ったんだ、きっと・・・
席を立ち、
居間の時計を確認しに行く。
「?!!」
何と、居間の時計も [ 午後3:00 ] を示している。
まだ腑に落ちずに、母に詰め寄る。
「お母さん、いま 何時?」
「え?3:00でしょう。」
「だって、私 まだゴハン食べていないよ?」
「呼んだのに、“今はいい。後で行く。”って
モモが 部屋から 出てこなかったんじゃない。」
「え?!私 言ってないよ、そんなこと。」
「何言ってるの?・・言ってたわよ。」
・・・話にならない。
そんなやりとりをした覚えはない。
ふてくされて 冷えた昼食をかきこみ、部屋に戻る。
小さい頃から、こんな事が 時々ある。
“時間”が、勝手に進んでしまうのだ。
私の知らないうちに、私を置いていくのだ。
「もうっ。
まだ何も勉強していないのに、勝手に進んだら困るじゃん。
頼むよ?時計?!
早く進みたいなら、また別の日にしてよ?
今週はテストなんだから。
ちゃんとしてくれなきゃ、困るよぉ・・・。」
半べそで 時計に苦情を申し立て、
気を取り直して 勉強を続ける。
今度こそ、見過ごさないんだからっ。
ちゃんと、時間を掴まえて 勉強するんだからっ!
4:03 殷墟、甲骨文字、夏王朝・・・
4:25 周王朝、春秋時代、孔子、
4:50 戦国時代・・
5:06 秦王朝 、陳勝、呉楚七国の乱 ・・・
覇者の野望。
繰り返される争乱。
疲弊した民。荒れた土地。
おびただしい数の死者、
平然と飲み込む 広大な中国の大地・・・
「・・・ちゃん、ご飯だよ!・・何回も呼ばせないでー?」
母の声で、我に返る。
え?もう ご飯の時間???
だって、全然 お腹 減っていない。
ふと時計を見ると、時計は [ 午後7:30 ] を指している。
「まさか?!」
ノートは、ほとんど進んでいない。
一瞬にして、何が起きたのかを悟る。
「・・・あぁ。 また、だよ・・・。」
がっくり、肩を落とす。
情けなくて 涙がにじむ。
時間は、涼しい顔で その先へ進み、
間抜けな私は 置いてきぼり。
「頼むよぉ~、時計ぃ~~~。」
私の頭が おかしいのか、
私の時計が おかしいのか?
時間は、いつもこうして、私を置いて 進むのだった。
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