イシスチャンネル Isis-CH
HOME > 和泉モモ モモの葉。Feel the world ~この世界の感じ方 「時を越える長距離走」
和泉モモ
Feel the world ~この世界の感じ方 モモの葉


時を越える 長距離走


小学1年の冬。
初めて「長距離走」を経験した。

(すごく疲れるだけなのに、
何の為に 長い間 同じ場所を ぐるぐる走り続けるんだろう?)

誰も訊かなかったので、一人 小首を傾げていた。


体育の授業で 長距離走を走るとき、
時に、不思議な感覚を 覚える。


・・・・・
・・・・
・・

走っていて ふと気付くと、
周囲に いつものグラウンドではなく、“荒れた大地”が 広がっている。
感覚的に、それは“古い時代の外国”と分かる。

私は 白い 変わった服を着ている。
体格の良い若い男性で、誰かから追いかけられている。
「・・・そうだ。早く走らないと、敵が来る!」と思い出す。

    時間がない。
    振り向いちゃいけない。
    とにかく逃げなきゃ!

走り出そうと 足下を見ると、いかにも走りにくい 変な靴。
ツタがふくらはぎに絡むようなデザインで、思うように走れない。

    マズイ。このままだと追いつかれる!

もの凄い緊迫感に、心臓が張り裂けそう・・・

・・・・・
・・・・
・・


・・・次の瞬間 気が付くと、
自分の身体は、
先ほどと同じように校庭を走っている。

「ふぅーっ。アブなかった・・・。」

突如吹き出す変な脂汗と 強い疲労感に動揺しつつも
周囲の友達の様子に合わせ、努めて平静を装う。

    ・・・ハテ?
    ところで、私はいま、何週目を走っていたのだっけ?

-走る度に現れる おかしな幻影に、
次第に 長距離走の授業が、億劫になっていった。




長距離走大会の当日。
無情にも天気予報が外れ、雨雲は空の向こうに・・・


所定の位置に付く。
「パーン!」
ピストルの音で1学年の女子が一斉に走り出す。


ほんの数歩 走っていく間に、いつもより早く 異変が起きた。
身体が大きくグラリと揺れ、眼球が奥へ引っ込む。
全身に強いG(重力)がかかり、地中に沈み込むよう・・・

「!!!」

次の瞬間、いつも見ていたあの世界が、
もの凄いリアリティと迫力で 周囲に広がっていく。

    えええええっ?!
    もう夢が始まっちゃった。
    まだほとんど走っていないのに!!

泣きそうになりながらも、とにかく前に向かって足を出す。


・・・・・・
・・・・
・・

湿気を 多く含んだ空気。
土埃が、霧のように もくもくと広がる。
雨上がりの匂いと、血なまぐさい匂いが混じり合っている。

今は明け方。
午前8:00頃。

大地は荒れに荒れていて・・・兎に角、足下が悪い。

もう既に かなりの距離を走った感がある。
足が 棒きれのように硬直し 疲れていて、思うように動かない。
足の裏が もの凄く痛い。
それでも私は、歯を食いしばって必死に走り続ける。

    ハテ?
    一体、何のために・・・?



後ろから、大地を轟かして轟音が響いてくる。

「ドドドド ドドドド ドドドォーーーーーーーーーーッ!!」

驚いて振り返ると、砂埃の向こうに、人々の大群。
何百?何千?とも見える。
同じ町、同じ国の人たちだ。

急に想い出す。

    あぁ、そうだ!奴らから 攻め込まれたんだ。

前を向いて「我 先に。」と、逃げる人々。
沢山の目が 血走っていて、幾つかは完全に我を失っている。


    とにかく私も、遠くへ逃げなきゃ!!

・・・私たちは、逃げている。
侵攻される覚えもない町の人たちから、急な襲撃を受けて。


走る。走る。走る、 人々。
   走る。走る。走る、 わたし。


肉体疲労は ピークに達していて、
私は 何とか 気力だけで 肉体を前に進めさせる。
その僅かな気力さえ、ほどなく尽き果てそう・・・

    この先は、坂道。
    しかも 道幅が細くなるはず。
    どうせ もう、逃げ切れない・・・

気弱な思いに 駆られた瞬間、
後ろから走ってきた男に、ぐいと左肩を捕まれた。

血眼。
まるで 飢えた獣。
私の毛髪をムンズと引っ張り、足のかかとを踏ん付けている。
(・・・私を押しのけて 前に進みたいのだ!)


バランスを崩し よろめいた私は、
澱んだ空を スローモーションで仰ぎ見ながら
地面に倒れ付す・・・


「ドスンッ!!」
鈍い音がする。

    左後頭部と左肩を強打した!

・・・そう分かるが、もはや 痛みは無い。
視界が消えていき、意識は暗闇に沈む。

自分の身体が、後続の多くの人たちに
ドスドス・・・と蹴り踏みつけられる音だけが聞こえる・・・・



・・・・・・
・・・・
・・

ふと、我に返る。

気づくと、私は
小学校のグラウンドで、派手に尻もちをついている。

    ・・・どうやら、転んだみたいだ。


走っても ほどけぬよう、固く結って貰った
お下げ髪が ほどけている。

最後まで完走出来るよう チョウチョ結びを二重に縛った、
左の靴が 脱げ転げている。

周囲を、友達が走り過ぎていく。

    「・・まだ、終わっていないんだ!」

事態を飲み込み 慌てて靴を履き、先を行く集団の後に続く。

・・這々の体で、何とかゴールに辿り着いた。


・・・・・・
・・・・
・・


    あれは、ホントに 夢だった?
    どうして、私は転げ、髪がほどけ、靴が脱げた?
    誰も、何も訊かないし・・・

無事ゴールできた安堵感で にこやかに語らう クラスメイト達の中、
私は一人、また小首を傾げていた。


不思議な経験を抱えきれず、
小学一年生は 今日も途方に暮れていた・・・。

 

ご意見・ご感想をお待ちしております  和泉モモの関連情報→

 

戻るこのページのトップへ
ご利用規約お問い合わせサイトマップ特定商取引法による表記プライバシーポリシー
当サイトに掲載されている文章・画像の無許可転載・転用を禁止します。